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2009年7月22日水曜日

日本語は難しい

~専門用語とはいうものの・・・~


  一般企業の総会も終了し、会計士協会の総会も無事終了しましたが、一息つく間もなく四半期決算の監査に突入してしまいます。早い会社ではすでに現場でのレビュー実務は一段落し、「独立監査人の四半期レビュー報告書」のドラフトが回ってくるため、文章を読んで内容のチェックを行うことになります。ここでいつものことですが、出くわすのですね、この文言に。


「・・・適正に表示していないと信じさせる事項がすべての重要な点において認められなかった。


 最初に読んだ時は何を言っているのかよくわからなかったのですが、いわゆる消極的意見表明ということで、二重否定の文言になっています。期末の財務諸表監査では、「・・・適正であると認める。」と、積極的に意見表明を行っているのですが、四半期はレビュー手続きが中心に行われているので保証のレベルが期末監査よりも低いため、このような意見になっているのです。でも一般の人が初めてこの文章に出くわすと面食らってしまうかもしれません。例えばNHKドラマ「監査法人」で、健司が「承認できないと信じさせる事項は認められませんでした」という台詞で小野寺に報告したとしたら、視聴者は「???」状態となってしまうでしょうね。国語的には正しいのかもしれませんが、何回読んでもなじめない言葉の一つです。


 最近IFRS(いわゆる国際会計基準)の導入が、会計士業界をはじめ上場企業の間でも大きな話題となっています。私も一足先に知識を身につけようと、本を買い込んだり雑誌の特集記事を入手して休日に読み込んでいるのですが、これがまたなかなか読みこなすのが大変なのです。IFRSといっても、会計的には特別難しいことをいっているわけではないと思うし、日本の会計基準自体もここ10年間でだいぶ進化してきており、しかも日本基準とIFRSとのコンバージェンスが進んできているため、読めばわかると気楽に思っていたのが甘かったのです。


 私も会計の専門家であり、IFRS特集を読んでみると、そこに書かれているのは間違いなく日本語なのですが、何しろ読んでもすっきり頭の中に入ってこないのですね。当初は私の過労と加齢による脳細胞の老化が原因かなと思っていたのですが、文章そのものが分かりにくいし、普段使わないような日本語がこれでもかとばかりにガシガシ登場してくるので、活字だけが素通りしていってしまい、頭の中にはなにも残らない状況なのです。IFESは日本語の解釈能力がないとなかなか手ごわい相手なのだ。


 同じようなケースはほかにもいろいろあります。たとえば内部統制における「重要な欠陥」というやつです。欠陥というと欠陥商品というイメージが先行してしまうので、大変重い言葉です。事業会社にとっては欠陥商品を発売した段階で命取りになりかねないので、非常に神経を使っているはずです。ですから「わが社の内部統制には重要な欠陥がありました」とはなかなか書きにくいと思います。「重要な欠陥」といっても、本当はそれほど深刻に考える必要はなく、内容的には「改善すべき事項」くらいに考えていただけたらいいのでしょうが、言葉の及ぼす影響と受け止める側の印象もありますので、なかなか難しいところがあります。


 「虚偽」という言葉も一般的にはほとんど使わない言葉ですが、監査業界ではよく使われる言葉です(積極的に口に出しては言いませんが)。クライアントさんに対して監査計画や監査結果を説明する際によく出てくる言葉なのですが、ある著名な社外監査役さんがこの言葉を目にして「会計士業界では虚偽などという言葉を使うのですか」と驚いていたのを思い出します。私も会計士業界の一員ですが、この言葉もどうしても馴染めないですね。


 ということで、すっきりしない日本語が多く登場するようになったのは、やはり翻訳の難しさがあるからでしょうか。それとも私自身が、監査業界ではもう骨董化しているからなのでしょうか。