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2008年8月8日金曜日

棚卸立会は結構疲れるのだ

NHKドラマ「監査法人」Q&A(三択問題その4)


Q4. 第1話で、健司が広い倉庫の中でヘルメットをかぶりながら、棒で指し示して「あれお願いします」といった後、段ボール箱の中身を確認し、「ありますね」とうなずいているシーンがありましたが、この手続はどういう手続ですか?


Ans
��.現場視察といいます。
��.棚卸立会といいます。
��.賞味期限チェックといいます。



 毎年決算月は、棚卸の時期でもあるのです。商品や製品は会社にとっては重要な資産であるため、会社の方は必死になって一個一個在庫を数えて棚卸残高表に転記していくのですね。それを集計して、会計上の棚卸資産残高になります。それでは、その間会計士は何をしているかというと、「棚卸立会」と称して、会社の人がきちんと棚卸実施マニュアルどおり棚卸手続をやっているかどうかを、じっくり見て歩くわけです。見ているだけでは牽制にはならないため、たまには抜き取りチェックも行いますが、健司もそれをしていたのですね。


 心情的には会社の人と一緒に在庫を数えて、棚卸を出来るだけ早く終わらせてあげたいし、会社のほうも当然そう思っているのですが、会計士が行う「棚卸立会」という監査手続は、たまに抜き取り検査はやるものの、会社の人に混じって一緒に棚卸を実施していくという手続ではないのですね。
 監査人としては、その辺のところを会社の人にわかっていただきたいところですが、なにしろみんな忙しくて、在庫を数えているうちにいらいらしていることもあるため、会計士がボ~ッと突っ立っていたりすると、「こらこら、そんなところでぼさっとしていてはいかんではないか、さっさと在庫を数えたまえ」などと、会社の人に怒られてしまうこともあります。言われた会計士もとっさのことでびっくりしてしまい、「あの~、私、会計士なんですけどぉ」と小さな声でつぶやいたりするわけです。
 棚卸資産と一口で言っても業種によってはいろいろあります。百貨店における衣類や、家電販売店のテレビなどは、一個一個数えることが出来るのですが、石油や化学薬品、鉄くずの山、肥料などといったら数えるのに苦労してしまいます。石油の棚卸立会のときなどは、ヘルメットをかぶりながら石油タンクの上によじ登り、中を覗き込んでメーターを数えたりするのですが、高いところが苦手な私は(高所恐怖症なのだ)、石油タンクの上でオロオロするばかりです。そして、「今ここで地震や火災があったら、間違いなく助からないだろうな」などと思いつつも、大事な監査手続ですので、省略するわけにはいきません。
 以前は、棚卸資産を水増しして利益を増やすという原始的な方法で、粉飾決算をやっていた会社もあったようですが、「棚卸立会」さえしっかりやっていれば、そのようなことは未然に防ぐことが出来るのです。しかし、鉄くずの山を数えるときに、「縦約何メートル、横何メートル、高さが何メートルだから、全体で何トンです」などと言われても、こちらとしては、「はぁ~、そうですか」としか言いようのないときもあるのも事実です。


 棚卸立会で最も印象に残っているのは、某製薬会社のケースです。この立会は、新人の登竜門といわれていたのですが、大きな倉庫に天井まで積み上げられている段ボール箱の上によじ登り、Tシャツとジーパンを埃だらけにしながらはいずりまわって数えていくわけです。丸一日がかりで数えるため、終わった後はへとへとになるのですが、肉体労働が終わった後の充実感は、仕事をはじめたばかりの会計士補(当時)にとっては、なんともいえないものがあり、ビールをのどに流し込みながら「会計士の試験科目に体育を加えるべきである」などとみんなで大声で話し合っていると、なんとなく連帯感が湧いてきたものです。
 若いころは、いろんな会社の棚卸を体験できて、それなりに楽しみもあるのですが、もう最近では、できるなら棚卸資産のない会社の監査を担当したいというのが、正直な気持ちなのです。でも、最近ではほとんど棚卸立会に出かけることはなくなりましたが・・・。